令和8年4月1日の認定分から、健康保険の被扶養者収入基準が変わります
保育現場において、年末が近づくにつれて頭を悩ませるのが、パート保育士さんや支援員さんの「年収の壁」による就業調整ではないでしょうか。
「人手が足りないのに、扶養から外れてしまうからとシフトに入ってもらえない」「急な欠員が出ても、これ以上残業を頼めない」といった声は、多くの園から聞かれます。こうした現場の悩みを解消するため、令和8年(2026年)4月1日の認定分から、健康保険の被扶養者(扶養家族)になるための収入判定ルールが大きく変わります。
今回は、保育業界に特化した社労士の視点から、この新ルールのポイントと園が備えておくべき実務について解説します。
1. 判定基準が「過去の実績」から「事前の労働契約」へ
これまでは、被扶養者になれるかどうかは、残業代などを含めた「今後1年間の収入見込み」を、過去の実績なども踏まえて総合的に判定されていました。そのため、「突発的な残業で一時的に月額が上がると、扶養を外されるかもしれない」という不安が働き控えに繋がっていました。
新しい仕組みでは、「雇用契約(労働条件通知書等)で定められた賃金」から算出される見込み年収によって判定されるようになります。
新ルールの判定イメージ
- 対象:給与収入のみの方(副業や年金がない方)
- 判定方法:労働条件通知書に記載された「時給 × 所定労働時間 × 日数」等の固定賃金で計算
- 基準額:
- 原則:130万円未満
- 60歳以上・障害者:180万円未満
- 19歳以上23歳未満(配偶者除く):150万円未満
2. 「急な残業」による収入増が認定に影響しにくくなります
園の運営において最も大きな変更点は、「契約段階では予見できなかった臨時収入は、判定に含めなくてよい」という点です。
例えば、以下のようなケースで結果的に年収が130万円を超えてしまっても、社会通念上妥当な範囲内であれば、被扶養者の認定は継続されます。
- 感染症の流行により、他の職員が急遽欠勤したためのカバー
- 運動会や発表会などの行事前の想定外の準備作業
- 一時的な延長保育の利用者増に伴う時間外勤務
これにより、スタッフ側も「うっかり壁を越えてしまうかも」という不安を感じることなく、園のピンチの際に追加シフトや残業を引き受けやすくなります。
3. 園が準備すべき「3つの実務アクション」
この新ルールを円滑に活用し、スタッフに安心して働いてもらうために、園側では以下の準備が必要です。
① 労働条件通知書の適切な交付と保管
「契約内容」が判定の主役になるため、時給や所定労働時間が明記された労働条件通知書(または雇用契約書)が不可欠です。書類がない場合、従来通り実際の支給額で判定されてしまうため、必ず全スタッフ分を整備・保管しておきましょう。
② スタッフへの周知と「申立て」のフォロー
このルールを適用するには、スタッフ本人が「給与収入のみである」と申立てを行う必要があります。また、副業(事業収入)や年金収入がある方は新ルールの対象外(従来通りの判定)となるため、個別のヒアリングも重要です。
③ 実態に即した契約の締結
「どうせ残業で上振れしても大丈夫だから」と、最初から明らかに低い労働時間を契約書に記載してごまかすような行為は厳禁です。悪質なケースとみなされると、遡って認定が取り消されるリスクがあります。あくまで「基本のシフト」を基準額内に収めることが前提です。
社労士の視点:保育現場での活用アドバイス
保育現場は「人」がすべてです。今回の改正は、「被扶養者認定の予見可能性を高める(=いくら働いたら扶養から外れるかを明確にする)」ことが狙いです。
園長先生はぜひ、「来年4月からは、行事や急な欠員の際の残業で少し年収が上がっても、すぐに扶養を外れることはなくなりますよ」とスタッフの方々に伝えてあげてください。この安心感こそが、定着率向上と柔軟なシフト運営の鍵となります。
まとめ
- 2026年4月より、健康保険の扶養認定は「雇用契約上の収入」を基準に判定される。
- 突発的な残業や欠員対応による臨時収入は、原則として認定に影響しない。
- 園は「労働条件通知書」を整備し、スタッフの働き控え不安を解消するチャンス!
今後、パートスタッフの採用や雇用契約の更新を行う際には、ぜひこの新しい仕組みを念頭に置き、園とスタッフの双方にとって安心できる働き方を提案していきましょう。具体的な労働条件通知書の書き方や判断に迷う場合は、弊社へご相談ください。

